Q.165 「傾き2/5の直線」

Q.165 ☆7◎ [東京大]

xy平面上の各格子点 ($x,y$ 座標がともに整数の点) を中心として半径$r$の円がえがかれており,傾き$\dfrac{2}{5}$の任意の直線はこれらの円のどれかと共有点を持つという。このような性質をもつ実数 $r$ の最小値を求めよ。

 

 

解答

 

傾き$\dfrac{2}{5}$の直線の方程式は $5x+2y-k=0$ ($k$は実数) の形で表せる。$r$に対し, 問題のようにある円と交わることは, 「いかなる実数$k$に対しても, ある格子点 $(m,n)$が少なくとも1つ存在して, 距離 $\dfrac{|5m+2n-k|}{\sqrt{5^{2}+2^{2}}}=\dfrac{|5m+2n-k|}{\sqrt{29}}$ が$r$以下となる」・・・(☆)ことと必要十分である。

 

任意に整数$N$を取る。それに応じて$m=N, n=-2N$ と置くことで格子点$(m,n) = (N,-2N)$を取ろう。このとき $5m+2n=N$ であるから, すなわち$5m+2n$はいかなる整数の値も取ることができる。また,いかなる格子点$(m,n)$に対しても明らかに $5m+2n$ は整数になるので, $(m,n)$ が格子点全体を動くとき, $5m+2n$ は整数全体を動くのである。

  $k$を任意に一つ固定する。(☆)が成り立つということは, $|5m+2n-k|$ を最小にする$(m,n)$に関して $\dfrac{|5m+2n-k|}{\sqrt{29}}\le  r$が成り立つということである(もし$>r$であるなら, いかなる円とも共有点を持たないであろう)。

実数$k$に対して $M_{k}+\dfrac{1}{2}\ge k$を満たす最小の整数$M_k$ が存在する。最小性から 

$M_{k} -\dfrac{1}{2}<k\le M_{k} +\dfrac{1}{2}$

が成立する。$k=M_{k}+j$ と置くと$-\dfrac{1}{2}<j\le \dfrac{1}{2}$であって, $|5m+2n-k|=|5m+2n-M_{k}-j|$ である。

すでに述べたように, $5m+2n=M_{k}$ となるように$(m,n)$を取ってくることが出来る。この場合, $|5m+2n - M_k - j| = |j|\le \dfrac{1}{2}$ である。よって, いかなる$k$に対しても上手く$(m,n)$を取れば$\dfrac{|5m + 2n - k|}{\sqrt{29}} \leq \dfrac{1}{2\sqrt{29}}$ が成り立つようにできるので, どの直線$5x+2y -k = 0$もある格子点中心半径$\dfrac{1}{2\sqrt{29}}$の円と交わっている。よって$r\geq \dfrac{1}{2\sqrt{29}}$であれば(☆)は満たす。 逆に$r<\dfrac{1}{2\sqrt{29}}$ であるとき, (☆)は必ずしも満たされない。実際, $k=\dfrac{1}{2}$ の場合を考えれば, $|5m + 2n -\dfrac{1}{2}|$ の最小値は $\dfrac{1}{2}$ であって, そのように最小にするときの$(m,n)$を取ってくれば, 直線$5x + 2y - \dfrac{1}{2} = 0$と格子点$(m,n)$の距離$\dfrac{|5m+2n - \frac{1}{2}|}{\sqrt{29}}$はまさしく$\dfrac{1}{2\sqrt{29}}$ となる。つまり, $5x+2y -\dfrac{1}{2} = 0$と格子点の距離で最も短いものが$\dfrac{1}{2\sqrt{29}}$なので, $r<\dfrac{1}{2\sqrt{29}}$ であると, 直線$5x+2y - \dfrac{1}{2} = 0$はどの格子点中心半径$r$の円とも交わらない(もし交わるとすれば, その円の中心としてある格子点と$5x+2y -\dfrac{1}{2} = 0$の距離は$r$以下なので, $\dfrac{1}{2\sqrt{29}}$未満となってしまうであろう)。

よって$r$の最小値は $\dfrac{1}{2\sqrt{29}}$ である。

 

コメント

大学で数学やってるとこの程度の論理も普通に扱うものではあるのですが, 高校数学の段階では結構大変に思われるものなのかもしれない。その意味で良いところ突いてくるんだなあって感じがします。「すべての~~に対して」とか「ある~~が存在して」の取り扱いというのは割と訓練してるのかもしれないですが。

ところで傾きを無理数にするとこのような$r>0$の最小値は存在しません。無理数の整数倍の小数部分が稠密に分布するからとかそんな感じの理由です。大学数学の幾何学では「埋め込みでないはめこみ」の例に絡んでくるものですね。つまり, トーラス$\mathbb{R}^2/\mathbb{Z}^2$においてこのような直線$y=\alpha x$ ($\alpha$は無理数) を射影してやると, その像$X$はトーラス上で稠密になってしまって, トーラスの部分位相に関して$X$を位相空間とみれば, $X$は($\mathbb{R}$でパラメタライズされるトーラスの上の曲線であるけれども)$\mathbb{R}$と同相ではないという。

興味がある方は「松本多様体」とか読んでみると良いでしょう。