(解いてみた その1) 2013駿台全国模試より

ツイッターで見かけた次の問題を解いてみました。出典は駿台全国模試とのこと。

 

問.

以下で $x$ の整式 $f(x)$, $g(x)$, $f_{m}(x)$ ($ m=1,2,\cdots  ,n $)はすべて整数係数で, 最高次の係数が$ 1 $であるとする。

(1) $ f(\sqrt{2} ) = 0$, $g(\sqrt{2} + \sqrt{3}) = 0$を満たす$ f(x) $, $ g(x) $をそれぞれ一つ求めよ。

(2) 平方数でない$ n $個の正の整数$ a_k $ ($ k=1,2,\cdots ,n $)に対して, $ \alpha_n = \displaystyle\sum_{k=1}^{n} \sqrt{a_k} $とする。このとき, $  f_n(\alpha_{n})=0 $を満たす$ f_{n}(x) $が存在することを示せ。

(3) $ \displaystyle\sum_{k=10}^{29} \sqrt{k^{2}+1} $が無理数であることを示せ。正, 必要ならば$ k\geq 1 $で $ k< \sqrt{k^{2}+1} < k+ \dfrac{1}{2k}$ が成り立つことを用いてよい。

 

元ツイートはこちら

 

 

 

(解答)

(1) $ f(x) = x^{2}-2$

$ g(x) = ( (x+\sqrt{3})^{2} -2 )( (x-\sqrt{3})^2 -2 ) = (x^{2} + 1 + 2\sqrt{3}x)(x^2+1 - 2\sqrt{3} x) = (x^{2}+1)^2 - (2\sqrt{3} x)^2 = x^{4} -10x^{2} +1$

でよい。(ただし, 実際は$ f $は決して$ 2 $次以下にはならない。$ g $も$ 4 $次以下にはならない。)

 

(2)  帰納的に構成する。$ f_{1}(x) =x^{2} - a_{1}$でよい。整数係数で最高次が$ 1 $である $f_{n-1}(x)$ が得られたとする。この$ f_{n-1}(x) $を

$ f_{n-1}(x) = \displaystyle\sum_{j=0}^{N} b_{j} x^{j} $ で表す。

各$j=0,1,\cdots $に対して, 

$(x+\sqrt{a_n})^{j} = \displaystyle\sum_{l=0}^{j} \binom{j}{l}x^{j-l}(\sqrt{a_n})^{l}$

$(x-\sqrt{a_n})^{j} = \displaystyle\sum_{l=0}^{j} \binom{j}{l}x^{j-l}(-\sqrt{a_n})^{l}$

であり, $ l $が偶数の場合に現れる項は上の二つで共通している。$ l $が奇数の項では符号のみが反転して現れる。それは, 以下の式からも明らかである。

$ (x\pm \sqrt{a_{n}})^{j} = \displaystyle\sum_{\substack{ 0\le l\le j\\ \mbox{$ l $は偶数}} }\binom{j}{l} x^{j-l} (a_{n})^{l/2} \pm \sqrt{a_{n}} \displaystyle\sum_{ \substack{ 0\le l\le j\\ \mbox{$ l $は奇数}} } x^{j-l}(a_{n})^{(l - 1)/2} $

 

ここで, 2つの$ \sum $の部分は整数係数多項式になっているから, 共通した整数係数多項式$ F_j(x), G_j(x) $が存在して

$(x+\sqrt{a_n})^{j} = F_j(x) + \sqrt{a_n} G_{j}(x)$

$(x+\sqrt{a_n} )^{j} = F_j(x) -\sqrt{a_n} G_{j}(x)$ 

と書けることになる。これと$f_{n-1}(x)$の$\sum$の表示をもとに, ある$F'_{n-1}(x), G'_{n-1}(x)$という整数係数多項式が存在して, 

$f_{n-1}(x\pm \sqrt{a_n}) = F'_{n-1}(x) \pm \sqrt{a_n} G'_{n-1}(x)$

となることが分かる。そこで, 

$f_n(x) = f_{n-1}(x+\sqrt{a_n}) f_{n-1}(x-\sqrt{a_n})$と定めると, 

$f_n(x) = F'_{n-1}(x)^2 - a_nG'_{n-1}(x)^2$ となり, 明らかに整数係数多項式をなす。\\

また, $f_{n-1}(x)$の仮定から$f_{n-1}(x\pm \sqrt{a_n})$の先頭係数は明らかに$ 1 $ なので,$f_n(x)$の先頭係数も明らかに$ 1 $である。さらに, $x= \alpha_n $を代入すると, $\alpha_{n} -\sqrt{a_n} = \alpha_{n-1}$に注意して

$f_{n}(\alpha_{n}) = f_{n-1}(\alpha_{n} + \sqrt{a_n}) f_{n-1}(\alpha_{n} - \sqrt{a_n})=0$ となる。

よって

$ f_1(x) = x^2 - a_{1} $, $f_{n}(x) = f_{n-1}(x+\sqrt{a_n})f_{n-1}(x-\sqrt{a_n})$ から定めればよい。\qed

 

(3) 有理数であったと仮定する。$\dfrac{q}{p} =  \displaystyle\sum_{k=10}^{29} \sqrt{k^2+1}$とおく。($ p,q $は自然数で, 互いに素)

(2) より, $\dfrac{q}{p}$はある先頭係数が$ 1 $の整数係数多項式$ F(x) $の根になる。そこで, $F(x) = x^{d} + c_1x^{d-1}+\cdots  + x^{1}x_{d-1} + c_d$ ($c_i$は整数) と書いて, $x=\dfrac{q}{p}$を代入し,

$\left(\dfrac{q}{p}\right)^{d} + c_1 \left(\dfrac{q}{p}\right)^{d-1} + \cdots + c_d = 0$

$p^{d}$を両辺にかけると

$q^{d} + pc_1q^{d-1} +\cdots p^{d}c_{d} = 0$

なので, この式から$q^{d}$は$p$の倍数なので, $ p=1 $でなければならない。(互いに素としたため)

$p=1$より, $\dfrac{q}{p} = q$となるので整数とならなければならない。

しかし, $\displaystyle\sum_{k=10}^{29} \sqrt{k^{2}+1}$が整数であるなら, $\displaystyle\sum_{k=10}^{29}(\sqrt{k^{2}+1} - k)$も整数である。ところが, これを不等式$ k<\sqrt{k^{2} +1} < k+\dfrac{1}{2k} $ ($ k=10,\cdots, 29$) で評価すると

$\displaystyle\sum_{k=10}^{29} 0 < \displaystyle\sum_{k=10}^{29} (\sqrt{k^{2}+1})< \displaystyle\sum_{k=10}^{29} \dfrac{1}{2k} < \displaystyle\sum_{k=10}^{29} \dfrac{1}{2\cdot 10} = \dfrac{1}{20} \times 20 =1$

で, $\displaystyle\sum_{k=10}^{29} (\sqrt{k^{2}+1})$ は整数となりえないので不合理。よって無理数である。

 

コメント

いくつか大学数学の言葉でいいかえられる問題です。$ A $を環として, ある数 $ s $ が$A$係数の最高次$ 1 $の多項式の根になることを $ s $は$A$上整である, と言ったりします。

(1) $\sqrt{2}$, $\sqrt{2}+\sqrt{3}$ は$\mathbb{Z}$上整であることを示せ。

(2) $\alpha_{n} $は $\mathbb{Z}$ 上整であることを示せ。

(3) $\displaystyle\sum_{k=10}^{29}\sqrt{k^{2}+ 1}$は無理数であることを示せ。

 

こういう代数学の背景があるので今の自分にとっては若干見通しが立ったものの, (2) は受験生の自分じゃ思いつかなかったかも。ちなみに (3) で使われるのは$ \mb{Z} $の整閉性と呼ばれるもので, すなわち 「$\mathbb{Z}$上整な$ \mathbb{Q} $の元は $\mathbb{Z}$の元に限る」が成り立ちます。だから, $\dfrac{q}{p}\in \mathbb{Q}$っておいたのが$ p=1 $になってしまうんですね。( $ \mathbb{Z}$はUFDですが, UFDならば整閉整域であるというのはよく知られたことです )